空太のそら言

隠れオタクのぐうたら

希有な出会い

正式に、契約書ができあがったとの連絡がきました。いよいよ本腰を入れて部屋の片付けを始めます。
昔の恋人からもらった手紙も、片づけたい。
そのために、引越までの間に、気持ちを整理すべくここに昔話を残していこうと思う。












23歳。
彼女と出会ったのは、春先だったのではないかと思う。
インターネットの中の交流サイトで、ちょっと変わった絵を描く人がいた。
特に仲がいいわけではなかったけれど、何となく気になっていて、自分からきっかけを作って話しかけた。
なんだか馬があってしまい、気づいたらいつもメッセンジャーでやりとりするようになっていた。


そのうち、中の人に興味が湧いていく。「実際会ってみよう」と言い出すのは自然なことだった。
幸い、二人の住まいは新幹線で1時間もあればたどり着ける距離。私が向こうの地元へ赴き、一緒に遊ぶこととなった。

今でも覚えている。
待ち合わせの駅の改札を挟んで、小柄な子が壁際に立っていた。鮮やかな羽織ものに、レイヤードのスカートとレギンス、ぺたんこのパンプス。赤茶色の頭は俯き、手元の携帯をのぞき込んでいた。
小さい子だな、と思った。
声をかけると、ぱっと顔を上げて、よそよそしく「はじめまして」と言って笑った。目尻に朱色のアイシャドウ。くりっとしたかわいらしい女の子だった。


夏も始まる暑い日だったが、私は長袖を着ていた。ノースリーブの彼女はしきりに「ありえん、暑くないの?」と聞いてきた。からっとしていたからか、暑さはあまり感じず、慣れない土地の橋を渡りながら、しきりにきょろきょろしていたと思う。

私鉄の終電は意外と早い。が、愚かなことに、終電が何時か調べずに遊びほうけていた。
日が暮れてからもたっぷり二人の時間を満喫して、さあ帰ろうという時間には行きに乗ってきた私鉄の特急はその日の営業を終えてしまっていた。かろうじて新幹線の最終には間に合う。心の中では焦りながらも、楽しかった時間の終わりを迎えるのが、なんだかひどくつらかった。それは彼女も一緒のようで、駅に向かえば向かうほど、二人の間には沈黙が重なっていった。

切符を買って、じゃあ、と改札を抜けようとすると、相手からの返事がない。よく見ると泣いている。
わたしはひどく驚いた。泣くほど寂しかったのか。まだ顔を合わせて1日目である。どうして良いのかもわからずに、ちょこっと頭をなでてやって、でもやっぱり分からず立ち尽くしていた。







その日、何をして遊んだのかはもう思い出せない。
初めて見たときの姿と、橋の上での会話、帰り際の涙、その3つだけが、鮮明に私の中に焼き付いている。