空太のそら言

隠れオタクのぐうたら

空飛ぶタイヤ 下

『凍り付いたように面を上げた捜査員たちの表情に活気が漲っていく。会議場に一本、全員を束ねて離さない芯が通った瞬間だった。』

空飛ぶタイヤ(下) (講談社文庫)

空飛ぶタイヤ(下) (講談社文庫)



うーん。
うーーーーーん。
下巻はほとんど一日で読み切ってしまった。早すぎ。
悔しいが面白かった。やはり池井戸潤に勧善懲悪を書かせるとすごいな。
上巻ではばらばらだったピースが、全ての善なる思いが、じわじわと動いて一つずつはまっていく様は素晴らしかった。
ただ、ちょっと赤松社長の悔しさや苛立ちについていけず、空回りしているなーと感じるところがあったので、その焦燥感をもうちょっと伝えられたら良かった。悩みながらも自分を貫こうとする姿はヒーロー然としすぎてしまって、ちょっと子供っぽくも見えてしまった。構成としてもいい作りの物語だけに、その子供っぽさが宙に浮いてしまった。
空飛ぶタイヤではなく下町ロケットで直木賞を受賞したのも、そういうところかなぁと勘ぐる。
でも、赤松社長の心の糸が切れる寸前のところからの立ち直りは良かった。




しかしこの物語の最大の主役は実は沢田ではないかと思う。
あまりに生々しい人間の弱さと、計算と、打算と、夢に現実逃避する姿は、もう直視できないほどだ。それでも最後には自分という人間に向き合い、ほとんど悟りを開いたかのように変わってしまった。その葛藤の描写が素晴らしい。
完全に悪い人も完全に善い人もいなくて、全ての人が善悪を自分の中に持っている。利己と倫理のその狭間に揺れながら沢田が取った一つの行動で、物語が大きく動く。
人間の弱さと、それに向き合う強さを、沢田という人物を通して伝えたかったのではないかな。



それにしても、池井戸潤さんは銀行員時代にどれほど悔しい思いをしたのか。もうそれが滲みまくっている。