空太のそら言

隠れオタクのぐうたら

アンダーグラウンド

 

アンダーグラウンド (講談社文庫)

アンダーグラウンド (講談社文庫)

 

 

 

実はこれが初めて読む村上春樹であった。

オウム真理教の元死刑囚らが極刑に処され、その時代に生きた人間として、自分の中で総括しなければならないなと思ったのがきっかけだった。

 

 

まず、読みながら私は作家にはなれないなと改めて思った。

これだけの人数にインタビューして文字を起こすことの大変さはいかほどかと思う。そんなこと本に書くはずもなく表面には出てこない。被害者と同じ目線にたつ努力をするのは並大抵の精神力ではできない。体力だって持たない。それをやり続けるのだから、本当に作家というのは極限まで自分を追い詰められる人にしか出来ないと思う。アイデアや感性だけで生きているのではない。

 

また、作者も言っていたが、自我を出さず、透明な空気のように文章をかけるのがすごい。語彙がないからすごいしか言えないがすごい。「部屋の隅で糸を繰り出し続ける蜘蛛」と例えていたが、私には透明な水のようだと思えた。自我を制して淡々と、そこにいないかのように書く。そんなこと出来るだろうか?

 

 

地下鉄サリン事件については、人間という生き物は、自分が巻き込まれる最悪の状況を描くことができないものなのだと改めて感じる。明らかに様子がおかしいのに、それをすぐさま「おかしい」「逃げなければ」とはならない。今まで経験、見聞したことのないものに想像力を跳躍させることは、できないのだな。そうすると未曾有の災害、人災に対して結局なす術ははいとなる。すこしでも臆病な種が生き残るのか。勇敢なものが生きるのか。

 

洗脳と統率との間はどこにあったのだろうと考える。未だ答えは出ないが、「自分が」それを成し遂げたいと思うかどうかが分かれ道なのだろう。

 

この時代に生きた人達は必読の書だろう。随分あとになって読むとまた感じ方が変わるかもしれない。