空太のそら言

隠れオタクのぐうたら

過去の清算。指輪

今日は指輪を処分しました。
かつて私がプレゼントしたものでした。









一度意気投合した二人がますます仲を深めるのに、そう時間はかかりませんでした。初めて会ったときにはすでに、お互いの携帯電話の番号を交換し、メールを毎日やりとりしていました。
彼女は相当のメール魔で、日頃メールに縁がない私はたいそう苦労して打っていたのを覚えています。
私のメール入力が早くなって彼女のスピードに追いつく頃には、何度か二人で遊びに出かけ、旅行に行くまでの仲になっていました。


いつから、と聞かれても明言できませんが、少なくとも、旅行に出かけたときには、友達に抱くものとは別の感情が、芽生えていました。お互いにそうだったと思います。旅行中、何度も手を繋ごうと不自然に体を寄せ合い、別れ際には何本化の電車を見送って少しでも二人でいる時間を引き延ばしていました。

私には、その感情が何なのか、よくわかりませんでした。ただ、彼女を守ってあげたい、頭を撫でてやりたい、と思っていました。

彼女に家庭は少し複雑で、そのため荒れた思春期を過ごしていたこと、親に撫でてもらったことがないことは、どこかの話の中で聞いていました。
強がってはいるものの、えてしてそういう人ほど脆くできていることを、そのころの私は知っていて、かつ、親に恵まれて育った私なら、親がどんな風に子供をあやすのか、彼女に身を持って教えることができます。
母性愛、というよりも、保護してやりたい、という感情だったのかもしれません。今思えば、自分が保護者になることで、誰かの役に立ってるという自己満足を充足したかったとも言えます。たぶん、そうなのでしょう。


とにかく、私の中で彼女の存在は、日に日に大きなものとなっていました。






告白をされました。
いつかはもう覚えていません。好きだ、と言われたと思います。内容も思い出せません。
私は、付き合っても良いかな、と考えていました。でも、自分が持っている感情が、恋なのか愛なのか何なのか、分かりません。ましてや、二人は同性です。ほんとうに彼女の告白を受け止めることができるのか、自信がありませんでした。(同性愛を受け入れられない方はここから先は読まない方がいいです)


私は、Okの返事を出しました。
その後すぐに、二人で会う予定があったので、卑しくも私は、そこで本当に恋人になれるか、自分を試すつもりでいました。それでもし受け入れられなければ、やっぱりごめんなさい、と言うつもりでした。
私のずるい考えは、相手に見抜かれました。そして、ひどく傷つけ、結局付き合うことにはなりませんでした。
彼女にとっては、自分が試されたのだと思ったようで、最後まで、彼女に胸に消えない傷として残っていた様子でした。
しかし、私がとった行動がそれほど傷つけるようなものだったのか、理解に苦しみました。だって、付き合ってみてやっぱりだめだった場合は別れるでしょう、良ければずっと付き合うでしょう、それのどこがいけないの、と考えていました。
今でも、彼女の傷の深さがどれぐらいのものか、よく分かりません。ただ、軽率な返事が人を不幸にするのを学んだ私は、すっかり告白や人から特別な感情を抱かれるのが怖くなり、今では必要以上に人に近づかないよう、心の距離をとるようになりました。
まあ、それはまた別の話ですね。










付き合うことのなかった二人ですが、変わらず連絡は取り合い、二人で遊ぶ日々を過ごしていました。
季節は一巡し、出会ってからは一年以上経っていたと思います。


詳しくは書けませんが、突然に、彼女の身に不幸が襲いかかりました。
それは理不尽な人災でした。理不尽すぎて、あれほど現実を憎んだことはありませんでした。呪ってやろうと、殺す殺す殺すと、毎日思っていました。
彼女の体は損なわれ、心身とも衰弱しきり、ついに、自殺すると言い出したのです。
私は何度も思い止まるように言いました。泣いて頼み込みました。
しかし、彼女の決意はまるで悟りでも開いたかのように揺るぎなく、私にはどうすることもできませんでした。
引き留めてくれるな、この世に残る方が地獄だと言っていました。なんの心の支えもないから、生きて行かれないと。


ただ、もし、私が支えてくれるなら、生きていけるかもしれない、と小さな声で彼女は言いました。




生きて欲しかったのです。


私は、支えることを約束しました。



二人は、これで付き合うことになりました。








かつて私がつき合えるかどうか試したのが彼女の心の暗闇になったように、私にとっての暗闇は「この時断っていたら、私が人一人殺したことになる」という思いでした。

それでも、まるで嫌いだったのではありません。むしろ、以前より好意は寄せていました。すごく大切にしたいとも思っていました。













なんか、私ひどいですね。
ずいぶん時間が経っているのに、今でも胸がうずきます。
正解なんてどこにもないのは分かっているのに、一つ一つの判断が合っていたのか間違っていたのか、そんなことばかり気になってしまいます。付き合っていた当時も、そういえば同じように悩んでいました。幸せと幸せの間で、底の見えない暗い不安が、口を開けていたのでしょう。




あー。
つらい。思い出すのがつらい。これほどとは。


まだ、手紙を捨てることはできそうにありません。