正義とは
カーテンを開けた窓から月の光が柔らかく注ぐ。その部屋の天井を見つめながら、男は静かに息をしていた。
ゆっくり瞬きをしてみるが、どうも眠りの足音は遠い。
寝返りを打つこともせず、ただじっと、そこで息をしている。
隣で寝る女がもぞりと動き、かけた布団が少し引っ張られた。
横に臥せた女の後頭部を見て、起きているかもしれないな、と男は思った。いやきっとそうだ。寝付けないのだ、俺のように。
ずっと、安らかに眠れる夜はなかったのだろう。そしてこれからも多分来ない。
ふと視線を窓に移す。雲の多い明るい夜空が窓に切り取られている。
男は静かに息を吐き、そして吸った。
正義とは何か。
ただ一つのことをずっと考えている。
男は女の真実を知ってしまった。
いや、真実などというのはおこがましい。ある事実を知ったのだ。
その事実が公になれば、女は女は法の下で裁かれる。
知らなければ幸せだったのに、と思わないことはなかった。何もかもから目を逸らして生きていれば楽だった。
しかし男はもう事実から逃げることができなくなった。女からそれを告げられたからだ。
男は再び天井に視線を戻し、瞼をきつく閉じた。
なるほど確かに罪な女だ。
事実を隠蔽すれば俺も犯罪者になる。逆に公にすれば、俺は彼女を裏切ることになる。
正義とは何か。
隣の女の控えめな息遣いが聞こえる。
常に見えない視線に怯える彼女を守りたかった。安心して夜を迎えられるようにしてやりたいと思った。
それは男にとってとても自然な感情だった。
法律は人間が作ったもの。判決を下すのは人間だ。
そして人間だって動物だ。
動物が自然にすることが正義でなくて何なのだ。
男はゆっくり目を開け、青白い天井を見つめた。
この女、そして女の全てと生きてゆこう。
それが俺の正義だ。
閉ざされた空間で、一次元のを夢を見る。
二人が安らかに眠る夜は来ない。